【獣医師監修】猫が病気になった時の食事の選び方と、治療中の食事の与え方
猫がかかりやすい病気には、腎臓病をはじめ、膀胱炎(ぼうこうえん)・尿路結石などの下部尿路疾患、そして口内炎など様々なものがあります。病気になってしまったら、どんな食事を与えればよいのでしょうか? 猫がかかりやすい病気とその対処法を「食」からみてみましょう。
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監修者:平野 朝子
北里大学 獣医学部 獣医学科 卒業。アイシア株式会社入社。
<資格>獣医師、ペット栄養管理士、ペットフード安全管理者
日本ペット栄養学会所属、日本獣医腎泌尿器学会所属
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猫がかかりやすい病気
まずは、猫がかかりやすい病気と症状をみてみましょう。
慢性腎臓病
慢性腎臓病は腎臓の機能が低下していく病気で、7歳以上のシニア期の猫で多くみられます。
腎臓病になると、水をたくさん飲む、おしっこの量が増える、食欲が落ちる、吐くなどの症状が現れます。これらの症状が現れる頃には進行していることの多い病気です。かかってしまうと根本的な治療法がないため、点滴や投薬の治療の他、進行を遅らせるために食事が大きな役割をはたすことになります。
肝臓病
肝炎、胆肝炎、肝硬変などの肝臓の病気にかかると、食欲がなくなる他、下痢、嘔吐(おうと)、腹水がたまる、おしっこの量が増える、黄疸が出る(白目や歯茎が黄色くなる)といった症状が現れます。ウィルスや細菌感染症、薬剤の影響など、様々な原因により引き起こされます。
もともと、肝臓は予備能力と再生能力が高い臓器のため、肝臓病は無症状で進行することが多く、症状が出たときには既に病気が進んでいることが多いです。そのため、定期的に健康診断を受けるようにしましょう。
胃腸炎
胃腸炎は食べ物やストレス、細菌やウィルス、寄生虫などの感染症、誤飲などが原因で胃腸が炎症し下痢や嘔吐、脱水を引き起こす病気です。食べなれていないものを食べた、一時的なストレスがあった、などが原因の場合、自然に治ることもありますが、複数回症状がみられるときは投薬や食事療法が必要となります。
食物アレルギーや過剰な免疫反応、消化器腫瘍の可能性があるときは、内視鏡検査が必要になることもあります。
また、猫特有の原因として、毛球症があります。毛づくろいにより飲み込んだ毛が胃腸に詰まってしまい、嘔吐や食欲不振などの症状が現れます。
膀胱炎
猫の膀胱炎は犬の膀胱炎の主な原因となる細菌感染による膀胱炎は少なく、原因不明の「突発性膀胱炎」が多く、再発しやすいことが特徴です。ストレスで発症する場合もあり、特に多頭飼いのお家では、相性の良くない猫がいる場合、慢性的なストレスにより突発性膀胱炎になりやすい傾向にあります。また、トイレが気に入らなくておしっこを我慢してしう結果、発症することもあります。
症状としては、何度もトイレに行く、排尿時に痛くて鳴く、1回の尿量が少なくなるなどの症状が現れます。
膀胱炎を予防するために、定期的な尿検査と新鮮な水を飲める環境、清潔なトイレを保つなどといった生活環境の提供が大切です。
尿路結石
膀胱に結石ができる病気で、冬は飲水量が減るため、夏よりも冬の方が、結石ができやすくなるといわれています。
特にオス猫は構造上、尿道に結石がつまりやすいため注意が必要です。ネコの尿路結石にはさまざまな種類のものがありますが、その多くがシュウ酸カルシウムの結石です。トイレに何度も行くが尿がまったくでない、またはほとんど出ない場合は尿路閉塞を起こしている可能性もあります。
口内炎
ウィルスや細菌、免疫異常などが原因で、唇の内側や舌、喉付近の粘膜がはれたり広範囲に炎症を引き起こす病気です。強い痛みを感じるため、ごはんを食べられなくなる、よだれが増えるなどの症状が現れます。
便秘
運動不足やストレスなどで腸の動きが悪くなる、水分が十分に摂れていないなどが原因で、猫も便秘になります。また、通常の便秘とは別に、便秘が慢性化することにより大腸の一部である結腸が膨張し、石のように固い大きな便がたまってしまうため、自力排泄ができなくなり巨大結腸症を引き起こしてしまいます。こうなって場合は、便をかき出す処置や投薬、伸びきってしまった腸を切除するための手術が必要となります。
上記で紹介した以外にも、猫がかかりやすい病気には、膵炎、甲状腺機能亢進(こうしん)症、糖尿病、心筋症、癌などがあります。
病気の時、食事で気をつけること
猫がこのような病気になってしまったら、食事はどのようなことに気をつけたらよいのか。また、普段からどのようなことに気をつければよいのでしょうか。
毎日の食事は、病気の治療や病気の進行を遅らせるための大きなポイントとなります。病院で療法食を指示されることも多いので、自己判断でなく必ず病院の指示に従って与えるようにしましょう。
慢性腎臓病を治療中の時
腎臓病が進んでくると、獣医師からタンパク質やミネラルが調整された食事療法を指導されます。腎臓の負担となるタンパク質やリンが抑えられてる他、エネルギー限となる脂質が高めに設計されています。また、腎臓の保護が期待されているDHAやEPAなどの脂肪酸が配合されていることもあります。
病気になる前からできることとして、普段から塩分摂取は控えめにして、シニア期では過度な高タンパク質(ドライフードでは40%以上)は避けた方がよいとされています。
肝臓病を治療中の時
病気の内容や症状によっても異なりますが、肝臓への負担を減らすため、低タンパク質・高炭水化物の食事を少量ずつ与えることが推奨されています。
肝臓の健康のために日頃から気をつけることとして、新鮮な食事を与える、ということがります。ドライフードは空気に触れているため、どうしても酸化してしまいます。酸化したドライフードは風味が落ちるだけではなく、肝臓の負担になるため、ドライフードを使用する際は小容量のものを選び、購入後は長期保管せず、なるべく早く使い切るようにしましょう。
胃腸炎を治療中の時
胃腸炎の症状が軽い、または一時的な症状であれば、半日程度食事を控え、その後普段食べ慣れている食事や消化のよい食べ物を少量ずつ与えましょう。食欲はなくてもいつもと違うフードやおやつなら食べるという場合でも、まずは胃腸を休めることが大切なので、おやつはなるべく控えるようにしましょう。
膀胱炎を治療中の時
水分を多く摂り、尿量を増やすことが重要です。ドライフードを与えるよりもウェットフードを与える方が尿量が増える、ということも研究でわかっているため、食事をウェットフードにすることは効果的です。また、新鮮な水をいつでも飲めるよう、水置き場を増やす、ウォーターファウンテンを置いてみるのもよいでしょう。
尿路結石を治療中の時
尿路結石を治療する際は、リンやマグネシウムなどのミネラルのバランスを調整した療法食での治療が中心になります。結石用の療法食の場合、その他のフードを与えると療法食の効果がなくなってしまうため、少量でも他のものは与えないようにしましょう。膀胱炎の時と同様に、水をたくさん飲めるように工夫してあげましょう。
口内炎を治療中の時
口内炎は、ひどくなってしまうと痛みにより食事がしにくくなります。猫が食べやすい、柔らかいウェットフードや、噛まずに飲み込めるような粒の小さなドライフードなど、いろいろなフードを試し、食べられるものを探してあげましょう。
便秘を治療中の時
軽度の便秘の解消には、食物繊維を含む食事や水分を十分に摂ることが有効とされています。猫用スープや水分を多く含んだウェットフードを与えるとよいでしょう。腸の運動を促すためにも、体調をみながら運動させてあげるのもおすすめです。
猫が病気になった時の食べさせ方
猫が病気になり、食欲が落ちてしまった時はどのように食事を与えたらよいのでしょうか。
治療中に食事をあげる時の注意点
病気の時は元気な時よりも匂いなどに過敏になっており、少しの変化で食欲が落ちることもあるため、次のことに気をつけてみましょう。
陶器などの食器に変える。
食器に洗剤の匂いが残っていることで食べなくなっていることもあるため、陶器などの匂いの残りにくい食器に変えてみましょう。
食べ残しはすぐに下げる。
ドライフードなどのフードが入ったお皿を一日中置きっぱなしにすることで、常に部屋にフードの匂いがする状態になります。猫は体調が悪い時に嗅いだ匂いを嫌いになってしまうこともあるため、残したごはんはすぐに下げるようにしましょう。
平らなお皿で与える。
お皿にヒゲが当たり、それを不快に感じて食べなくこともあるため、ヒゲの当たらないような平らなお皿で与えてみるのもよいでしょう。
その他、人肌に温めてあげる、安心できる場所で与えるなども試してみましょう。
療法食をあげる時の注意点
療法食は獣医師の指導のもと与えることが基本です。病気に対して栄養素を調整しているため、健康な猫が食べた場合、栄養が足りなくなってしまうこともあります。多頭飼いの場合は、健康な子と療法食を与える子の食事をきっちりと分けるようにしましょう。
また、猫が療法食を食べてくれないことも少なくありません。療法食をうまく食べさせるには、これまでの食べ慣れたキャットフードに療法食をまぜて与え、慣れてきたら徐々に療法食の分量を増やして時間をかけて切り替えていくことがポイントです。
療法食にはたくさんの種類があるので、食べない場合、獣医師と相談しながら他のメーカーのものを試してみるのもようでしょう。
まとめ
猫が病気になってしまった時、食事はお家でできる大切な治療のひとつです。しかし、猫の好みにどうしても合わない場合や、フードが高額で続けることが難しい場合もあります。かかりつけの動物病院と相談しながら、猫にも飼い主さんにも無理のない範囲で食事のケアをしていきましょう。