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【獣医師監修】猫のアレルギー症状と対策 ~アレルギーの原因、種類を解説~

2024.10.1
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猫のグルーミングが多い? 舐めまわし過ぎ? かゆい? もしかしてアレルギー? 心配になりますよね。猫のアレルギーには、いくつかの種類があり、その原因となる物質はそれぞれ異なります。猫のアレルギーの診断・治療はどのように行われるのでしょうか。また、アレルギー症状を起こしにくくするために、飼い主さんにできる対策はあるのでしょうか。この記事では、猫のアレルギー症状の原因、種類、対策などについて紹介します。

アイシア 「猫の育て方」編集部監修

アイシア(株)在職で商品開発にも携わり、臨床経験もある獣医師が所属している「猫の育て方」編集部。商品開発などのお仕事を通して、猫の健康的な生活について考えているメンバーが揃っています。

INDEX

猫のアレルギーの症状

猫の典型的なアレルギー症状には、かゆみ、発赤などの皮膚症状、嘔吐(おうと)、下痢などの消化器症状、くしゃみ、目の炎症、咳などがあります。

猫のアレルギーに関してはまだ十分に解明されていないのが現状です。健康な猫であっても、将来的にアレルギーを発症する可能性がありますから、飼い主さんとしても、猫のアレルギーの原因や症状について、理解を深めておくことをおすすめします。

猫のアレルギーの原因

生物には、体内に侵入する細菌、ウイルス、寄生虫など、微生物や異物から身を守る「免疫」(めんえき)という仕組みがあります。ある特定の異物(ダニや花粉、食物など)に対し免疫が過剰に反応して、体に症状が引き起こされることを「アレルギー反応」といい、そのアレルギーを引き起こす原因物質を「アレルゲン」と呼びます。

猫のアレルギーを引き起こす原因物質には、空気中の花粉、チリ、ホコリ、カビ、ダニの死骸や糞、動物の皮膚片や毛断片などのいわゆる「ハウスダスト」や、ノミ、特定の食品成分(肉、卵、乳製品、穀類など)などがあります。まれではありますが、薬剤やワクチンが原因となることもあります。

よくみられる猫のアレルギーを解説

猫のアレルギーの中でも主に皮膚症状が出るものはアレルギー性皮膚炎または過敏性皮膚炎と呼ばれます。「アトピー性皮膚症候群」「ノミアレルギー性皮膚炎」「食物アレルギー」があり、複数のアレルギーを同時に発症する可能性もあります。何が原因でどのような症状が起こるのか、種類別に詳しく見ていきましょう。

①アトピー性皮膚症候群

猫のアレルギー性皮膚炎の中でも、ノミや食物によらないものを「アトピー性皮膚症候群」と呼びます。その主な症状、原因、診断・治療方法について解説します。

  • アトピー性皮膚症候群の主な症状

    猫のアトピー性皮膚症候群の主な症状は、顔や首、腹、足など、全身のさまざまな部位に生じるかゆみです。猫がかゆい部分を掻いたり、舐めまわしたりすると、さらにかゆみが悪化し、掻き壊しや、局所的な脱毛に至ることもあります。
    また、基本的にはかゆみの症状が出ることが多いですが、上唇の潰瘍や、口の中のできものなどの、かゆみを伴わない症状が出ることもあります。人間や犬の「アトピー性皮膚炎」の症状にも似ていますが、その発症の仕組みには、未解明な点が多く残っています。

  • アトピー性皮膚症候群の原因

    アトピー性皮膚症候群の主な原因は、花粉やハウスダストなどの環境抗原だと言われています。花粉が原因の場合には、季節によって症状の強さに波が出ることがあります。

  • アトピー性皮膚症候群の診断・治療方法

    アトピー性皮膚症候群の診断は、除外診断(消去法的診断)によって行われます。皮膚炎の症状を示した猫について、細菌やカビなどの感染がないか、ノミなどの外部寄生虫感染はないか、食物アレルギーでないかを確認し、それらの関与が否定された場合に、アトピー性皮膚症候群と診断されます。このことから、アトピー性皮膚症候群は、別名「非ノミ非食物誘発性過敏性皮膚炎」「猫のアトピー性皮膚炎」とも呼ばれます。

    アトピー性皮膚症候群の完治は難しいと言われていますが、適切な治療によって、かゆみや炎症などのつらい症状を緩和することは可能です。アトピー性皮膚症候群の症状を抑える治療には、以下のものがあります。

    アトピー性皮膚症候群の症状を抑える治療の例
    • 抗アレルギー薬による薬物治療を行う
    • 炎症を緩和するサプリメントを与える
    • 生活環境からアレルゲンを除去する
    • 原因のアレルゲンを少量ずつ注射し、アレルゲンにペットの体を徐々に慣らしていく「アレルゲン特異的免疫療法(減感作療法)」を行う
    • 患部を刺激しないためエリザベスカラーを利用する

    複数の治療法を組み合わせて実施される場合もあります。獣医師の指示に従い、継続的に治療を行っていくことが大切です。


②ノミアレルギー性皮膚炎

ノミによって引き起こされる「ノミアレルギー性皮膚炎」について解説します。

  • ノミアレルギー性皮膚炎の主な症状

    ノミアレルギー性皮膚炎は、ノミが活発に活動する暖かい季節(夏~秋)に発症しやすいです。よくみられる症状は、背中から腰にかけての強いかゆみや、赤いブツブツです。腰背部以外にも全身に発生する可能性があり、掻き壊しや脱毛がみられることもあります。

  • ノミアレルギー性皮膚炎の原因

    猫のノミアレルギー性皮膚炎は、ノミの唾液にアレルギー反応を起こして発症します。ノミは動物の体の表面に寄生する、全長1.5mm前後の外部寄生虫です。ノミには数多くの種類がいますが、猫に寄生するノミのうち、最も一般的なものは「ネコノミ」です。ノミに咬まれた箇所が1箇所であっても、強いかゆみが出ることがあります。

    ノミアレルギー性皮膚炎は、屋外に出る猫の場合には特に注意が必要です。とはいえ、完全室内飼育の猫であっても、人間の衣服や靴などを通じて室内にノミが入ってきた場合、発症してしまう可能性があります。

  • ノミアレルギー性皮膚炎の診断・治療方法

    ノミアレルギー性皮膚炎の症状は、他の過敏性皮膚炎の症状とも似ているため、症状だけで他の疾患と区別することは困難です。猫の体に、ノミやノミの糞が付着しているのを発見できれば、診断の手がかりとなります。しかし、猫の体に寄生しているノミの数は少ないことが多く、調べたときに必ずしもノミの姿が発見できるとは限りません。
    ノミの糞は、小さな黒い粒のような外観をしており、濡らしたティッシュペーパーなどで潰すと、ノミが吸血した血液成分が溶け出して赤褐色となるため、ノミの糞であると確認できます。

    治療は、駆虫薬が使用されます。また、症状に応じてかゆみ止めや抗生物質が使用されることもあります。駆虫薬は予防としても使えるので、ノミの活動が活発になる季節には、定期的な投与を検討するとよいかもしれません。


③食物アレルギー

肉類や穀類などの特定の食物によって引き起こされる「食物アレルギー」について解説します。

  • 食物アレルギーの主な症状

    猫の食物アレルギーの主な症状には、非季節性のかゆみ、赤い斑点やブツブツなどの皮膚症状以外に、嘔吐や下痢などの消化器症状があります。特にかゆみの症状が現れやすい場所は、頭や首の周囲、耳介などですが、全身に症状が出ることもあります。掻き壊しや、脱毛も多く認められます。主食であるキャットフードの原料が原因である場合は、1年を通して症状の変動はほぼみられません。他にもおやつなどで症状が現れることもあります。

  • 食物アレルギーの原因

    猫の食物アレルギーの原因(アレルゲン)として報告が多いものは、牛肉、豚肉、鶏肉、ラム肉などの肉類や、卵、乳製品、穀類(小麦、大豆)など、キャットフードに使われることが多い食べ物となっています。

  • 食物アレルギーの診断・治療方法

    猫の食物アレルギーの診断は、症状や病歴などを参考に、「除去食試験」と「食物負荷試験」によって行われます。まず、アレルギー症状が出ていたときに与えていた食材を確認し、新規タンパク質(今まで摂取したことのないタンパク質)を主体としたフードに変更します。(除去食試験)。また、タンパク質を酵素によって「ペプチド」や「アミノ酸」に分解した療法食を与える場合もあります。「ペプチド」や「アミノ酸」はアレルゲンとして認識されづらく、アレルギーを起こしにくいと言われています。1回の除去食試験で改善がない場合には、食事を変えて試験を延長することもあります。

    この除去食試験の後、皮膚症状が改善した場合は、前の食材を少しずつ与えて、症状のぶり返しが起こる食材を探します(食物負荷試験)。

    試験の間は、おやつなども含めて、指定された食品以外を与えることができませんので、注意が必要です。獣医師の指導に従い、決められた手順を守って試験を行うことで、アレルギーの原因である食材を絞りこむことができます。


よく似た皮膚症状がアレルギー以外でも出るケース

これまで3種類の過敏性皮膚炎について紹介しましたが、これらによく似た皮膚症状が、アレルギー以外でも出る場合があります。

  • カビによる皮膚糸状菌症

    皮膚糸状菌症とは、いわゆる人間の「水虫」にあたるカビの感染症です。屋外に出る猫や、他の猫と接する機会が多い猫は、特に注意した方がよいでしょう。

  • ストレスによる脱毛

    引っ越しや騒音、新しい猫を迎え入れたなど、これまでの生活環境に変化が起きると、猫はストレスを感じ、過剰なグルーミングによって脱毛することがあります。
    猫の皮膚などに異常を感じたときは、早めに動物病院を受診し、獣医師による診断を受けましょう。

ここまで主に皮膚症状がみられるアレルギー疾患について解説しましたが、その他の部位に症状が現れるアレルギー疾患についても解説します。


④猫喘息

猫喘息の症状は、断続的に繰り返す咳、「ヒューヒュー」と音のする喘鳴などです。重度になると呼吸困難(開口呼吸やチアノーゼ)を示すこともあり、注意が必要です。原因は、環境抗原や大気汚染物質のほかに、体質なども関与すると考えられています。除外診断で、感染症、慢性気管支炎、腫瘍などといった疾患がないことを確認した後、猫喘息と診断されます。治療は抗炎症薬、気管支拡張薬などにより行われます。人間では幼児期の喘息が多いですが、猫喘息は年齢にかかわらず発症する可能性があります。


⑤その他のアレルギー

まれではありますが、ワクチンや薬剤を使用後、数分から数時間以内に「アナフィラキシーショック」が現れることがあります。主な症状は、けいれん、血圧低下、呼吸困難、嘔吐、下痢などです。生命の危険があり、一刻も早い受診が必要です。また、数時間経過後に、顔周りの腫れ、皮膚の赤み、発熱、元気消失などの症状が現れる、遅延型アレルギー反応にも注意しましょう。ワクチンや薬剤を使用した後は、猫の体調変化に特に気を配りたいものです。

猫のアレルギー対策

強いかゆみを伴うことも多いアレルギーは、猫にとって、大変つらいものです。猫がアレルギーを起こしにくくするために、飼い主さんは、どのようなことに気を付けたらよいのでしょうか。猫のアレルギー対策について紹介します。

住環境の改善

猫のアレルギー対策の一環として、住環境の見直しも大切です。定期的にお部屋の掃除を行い、アレルゲンとなり得るハウスダストなどを可能な限り除去しましょう。空気清浄機を使用するのも効果的です。
喘息を持っている場合には、たばこの煙や香水、芳香剤など気道の刺激になるものはなるべく避けましょう。

また、猫のストレスを軽減するための工夫も大切です。アレルギーを発症した後、かゆみが悪化する要因の一つにストレスがあります。猫のストレスを軽減するため、室内の温度や湿度を快適に保ち、隠れる場所や高い場所、お気に入りのおもちゃなどを用意し、猫が過ごしやすい環境づくりを心がけましょう。家族とのコミュニケーションも大切ですが、あまり行き過ぎると、猫にとってストレスになる場合があることにも留意しましょう。


食物アレルギーケア

かゆみなどの皮膚症状や消化器症状など、何らかの症状が出ている場合には獣医師の診察を受けましょう。現在、症状は出ていないけれど、食物アレルギーに配慮されたフードを使用したい場合には、キャットフード選びにも工夫が必要です。キャットフードは複数の食材を組み合わせてつくられていることも多いですが、アレルギーの原因となる食材を避けるため、できるだけ使用する食材が限定された、シンプルなキャットフードを選ぶのがよいでしょう。

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